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<医療過去未来>医療の「大量消費時代」とは何か⑯CAMの「科学的根拠」づくりが供給側の戦略か

 今回は補完・代替医療(CAM)とは何か、そしてそれらの持つ課題について大雑把だが、眺めていく。CAMについては、前回に続き、明治国際医療大学の今西二郎教授の定義を参照しながらその分類を示そう。同教授によれば、CAMは以下の10種になる。

①民間療法などの体系的医療=漢方、鍼灸、アーユルヴェーダ、チベット医学、ユナニ、その他各国の民族療法、ホメオパシー、自然療法、人智医学
②食事・ハーブ療法=栄養補助食品(サプリメント、健康食品)、絶食療法、花療法、ハーブ療法、長寿食、菜食主義、メガビタミン療法、マクロビオテック
③心を落ち着かせ、体力を回復させる療法=バイオフィードバック、催眠療法、瞑想療法、リラクゼーション法、イメージ療法、漸進的筋弛緩療法
④体を動かして健康を測る療法=太極拳、ヨガ、運動療法、ダンスセラピー、森林療法
⑤動物や植物を育てることで安楽を得る療法=アニマルセラピー(動物介在療法)、イルカ療法、ホーズセラピー、園芸療法
⑥感覚を通して、より健康になる療法=アロマセラピー、芸術療法、絵画療法、ユーモアセラピー、光療法、音楽療法
⑦物理的刺激を利用した療法=温泉療法、刺激療法、電磁療法
⑧外からの力で健康を回復させる療法=指圧、カイロプラクティック、マッサージ、オステオパシー、リフレクソロジー、セラピューティックタッチ
⑨環境を利用した療法=森林療法(クナイプ療法)、スパセラピー(温泉療法)、タラソセラピー(海洋療法)
⑩宗教的療法=クリスタル療法、信仰療法、シャーマニズム

●消費者には曖昧なサプリメントとOTC薬の境界

 上記に挙げたものは、いずれも詳しくはないが聞いたことがあるという人は多いはずである。あるいは、街中で、こうしたセラピーを謳う場所を通りすぎた経験のある人は少なくないはずだ。ある意味、こうしたCAMの世界はすでに、日本でもかなりの勢いで浸透していることを実感させる。

 このうち漢方、鍼灸、あるいはその他東洋医学的なものに関しては、国内では保険医療に収載されている分野もある。ここでは論点だけを示すが、保険医療における費用対効果の論議が進めば、エビデンス自体が不確実なものとしての印象も強い漢方などの領域は、その扱いが非常に難しくなる局面を迎えるかもしれない。保険医療費的には保険でカバーすることは無駄なのか、あるいはエビデンスや費用対効果が小さくても、療法として支持する医療者、患者がいる限り、他の療法と比して低コストであるとの判断が生まれるのか、両端の微妙な論議が起こる可能性は捨てきれない。

 ここでは、やはりサプリメントについて述べてみよう。一概にサプリメントといっても、その分類にはいくつかの考え方がある。現在、医薬品して認可されている漢方・生薬、ハーブ類も含めてサプリメントに含める場合もあるようだが、この稿では医薬品を除いたものをサプリメントと呼ぶ。つまり、健康の維持などを目的とする「食品」をサプリメントとして扱いたいが、アレルギー除去食品や妊産婦、乳児を対象にした特別用途食品はこのカテゴリーには入れない。むろん、それらを含めた総称がサプリメントと見做されていることは承知したうえで。

 一般的にサプリメントとして認識されているとのカテゴリーに従えば、健康増進法、食品表示法に基づく、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品の3分野を指していると考えられる。

 特定保健用食品は、一定の科学的根拠に基づいて消費者庁が認可したもので、整腸、コレステロール抑制、高血圧、ミネラル吸収、骨リスク、血中脂肪・体脂肪リスク、血糖値高めなどのリスクを抑制したい人向けのニーズ対象食品。生活習慣病対策、加齢に伴う疾病リスクなどを対象にしていることが明らかだ。

 栄養機能食品は、ビタミン、ミネラルの成分が一定量含まれていることを表示できる食品だ。皮膚や粘膜といった、どういう身体部位に保健機能維持があるかを消費者に訴求することができる。

 機能性表示食品は15年から始まったもので、科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品。販売前に安全性、根拠についての情報が消費者庁に届けられたものだ。事業者の責任に基づいて一定の成分表示ができる。

 こうしてみると、食品とはいえある程度の科学的根拠が保健用食品として名乗るには条件となっていることが理解できる。しかし、あくまでも食品であり、管轄官庁が消費者庁という点で、医薬品とは一線を画すことが明確にされている。とはいえ、消費者にとってOTC薬とサプリメントの境界が、こうした法的位置づけで理解されているとは思えない。

 また、特定保健用食品等はいわゆる「健康食品」の乱暴な市場創出と、実際に健康被害などが発生したことから、いわば防衛的に法的位置づけがなされたものであって、法整備が行われたからといって、国がサプリメントを奨励した経緯はないことも留意しておく必要がある。そのためもあるが、科学的根拠に関しても未だにそのレビューを行う機関は定まっておらず、その方法論も議論の進みは遅い。

 厳しい印象を伝えれば、保健用食品として認知を受けていることが、一定の宣伝効果を持ち、また科学的根拠を持っていること、つまり臨床試験の実施の宣伝、臨床試験データの閲覧告知など、事業者側には防衛的というより、戦略的手段に使われているのではないだろうか。「医薬品並み」という印象操作の懸念は、決して筆者だけの印象ではないはずである。

●「科学的根拠」も多様に標準化できるのか

 サプリメントの「科学的根拠」に関して、ここで詳細に論じていくのは脱線が過ぎるので、簡単に課題のみを示してみよう。科学的根拠の具体的手法は医薬品・医療機器の治験や臨床試験手法が参考になるのは論を俟たないが、代替医療のすべてがその手法で完結できるわけではない。安全性に関しては、そうした手法が多くの場合有効であると考えられやすいが、人々の健康維持、寿命に対する貢献をどう測定するか、つまり効果測定に関しては、冒頭に挙げたCAMの種別をみれば理解できると考えるが、医薬品的な手法でのエビデンスの集積が困難だと思えるものも少なくない。ある意味、CAMの種別ごとに臨床試験とコホート型研究の混合、伝統医療が行われている地域における健康度の比較など、「科学的根拠」は多様でなければならないという課題が横たわる。

 サプリメント等による健康被害を防ぐためにもこうした研究が必要であることは当然だが、種別に一定の科学的根拠集積方法を標準化すれば、逆にそこに組み込めないCAMの存在が浮上したり、一定地域で信頼を得ているCAMに否定的なデータが生まれてくる可能性がある。地域的、民族的、国家的文化の問題と関わる可能性も出てこよう。

 そして、もっと問題なのは、こうした理想的なCAMに対する「科学的根拠」取得の標準的整備が進めば、相対的にコストに跳ね返ることだ。現在、メディアを通じて人々に伝えられているサプリメントの価格は決して安いわけではない。価格を通じて信用を提供している側面も大きい。保健用食品のデータ公開が防衛的ではなく、戦略化しているという指摘を示したのはそういう意味だ。

 そして、この戦略がますます常態化していけば、サプリメント市場は爆発的に拡大することを予測させる。それは保険医療費を減らすかもしれないが、国民の費用負担は増える構造を生み出すだろう。保険医療費の縮小策がCAMへの傾斜、依存を誘導することを想定すると、また新たなステージでの医療大量消費時代が幕を開けるのだ。

 次号では、サプリメント市場の拡大が何をもたらすか展望する。(幸)
※参考資料:今西二郎「統合医療」(改訂2版、金芳堂)

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