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病院アメニティのハードとソフト

 明るい吹き抜けのロビー、木目のあたたかみを生かした内装、見やすく工夫した部門表示、受付や支払いの自動化など、新築や改築を機に施設や設備といったハード面の快適性(アメニティ)を高める病院が増えてきた。こうした病院は、受診者の気持ちというソフト面にも好影響を与えているのだろうか。

◆高齢者なりの事情と感情

 そんなことを考えたのは、ここ2週間で2度、母の検査受診に付き添ったからだ。「戦時中はろくな栄養を摂っていないから私はきっと早死にする」とさかんに言っていた母もはや80代半ば。これまで120~130mmHgを保っていた収縮期血圧がこの2~3か月で180mmHg前後になり、降圧剤を飲んでも下がらない。腎機能の低下がみられ、足にむくみも出たことから、かかりつけ医の勧めに従い、全国に70病院を展開するグループの、600床レベルの病院へと紹介受診となった。

 90歳を超えた父も、「循環器の方で定期受診しているから、この病院の仕組みはよくわかっている」と、杖を突き突き同行だ。もともとエンジニアだったためか、今ではネット検索が大好きな「健康情報オタク」。自分の受診前には必ず医療施設のホームページを見て担当医のプロフィールをチェックし、処方された薬の用法・用量、作用機序や副作用を調べる。今回は「製薬企業の便利なサイト」でクレアチニン値からeGFRを計算し、「お前は透析になるんじゃないか」と母を不安にさせたらしい。

 紹介先の腎臓内科では初診の問診後、①採血、採尿、腹部エコー、②心電図、③X線の各検査がオーダーされた。①②③はフロアが異なるため、同科の受付担当が印刷された院内図に矢印で流れを示してくれたが、もし両親だけだったら理解が難しかったかもしれない。まず、①へと移動すると、若い受付嬢は「いま採尿の待ち時間が長いのですが、腹部エコーのときは膀胱に尿がある方がよいので、採血後に心電図を先にとってここに戻り、エコー後に採尿してください」と言う。

 この指示は日帰り人間ドックなど、基本的に健康な成人が対象のときには効率的なのだが、高齢者では、生理上そううまくは運ばない。母は多めの採血後の出血が止まりにくく、心電図を合間にとるのをあきらめ、腹部エコーを待っているうちに尿意をもよおすなど、右往左往したあげく計画倒れになった。待ち時間に見ていると、さっさと終わりそうに思える自己採尿も、ひとりひとり想像以上に時間がかかっていた。

 検査結果を聞きに行った2回目の受診では、「右腎に水腎症がみられ、尿路閉塞の原因精査のため(隣接する)泌尿器科への院内紹介」となった。検査結果を素人にもわかりやすくぱっきりと説明した紹介元A医師に比べ、急に紹介を受けたB医師は(ベテランのはずだが)、患者を診察室に通した後に経過を確認し、説明より先にしばし電子カルテに入力。その結果、B医師がA医師に直接確認のために席を外した隙に母は「なんだか、頼りない先生だね・・・」と小声でつぶやいたのだった。

◆快適性が生むアウトカム

 日本医療機能評価機構が病院機能評価を開始してから20年あまり。「一般病院2」(主として、2次医療圏の比較的広い地域において急性期医療を中心に地域医療を支える基幹的病院)の場合、「1 患者中心の医療の推進」に始まり、「2 良質な医療の実践1」、「3 良質な医療の実践2」、「4 理念達成に向けた組織運営」の4分野を評価している。

 母が受診した病院は、この評価報告書を公開しており、概ね高評価を得ていることがわかる。2回の受診とも、受付から会計まで約4時間を要したが、スタッフや機器の稼働率と患者数のバランスを考えるとやむを得ない数字かと思う。あと少し、運用面の配慮があれば文句なしだが、各科・部門の対応は、事務的でも高圧的でもなく十分に許容しうる範囲だ。

 所と医療制度は異なるが、米国における病院の戦略ではかつて、最新の医療機器や設備で良い医師を引きつけることで間接的に患者を呼ぶ時代があり、1990年代に入るとホテルのような快適さで十分な保険に入っている患者に直接アピールすることがはやった。その後、コスト削減の波がやってきたものの、「病院でのケアにおける患者の快適性(patient amenities)と経験(better experiences)の重要性」も認識されるようになった。病院が快適だと医療者がより良いケアを患者に提供し、良いアウトカムが得られるという研究者もいる。

 医療者の技術、施設・設備、環境の快適性、患者の満足度、治療成果、コストなど、医療はいわば複雑な項目からなる方程式だ。患者も全体に高齢化傾向にあるだけでなく、医療に対する希望や行動が多様になった。どうバランスをとって最善の解答を得るのか、老親との受診は素人ながら考えさせられる機会になった。(玲)

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