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【今週の提言】 社会は変えられる

 今回で連載108回目になるが、おそらく最も読まれたのは2回目に書いた「オプジーボに経済産業省が「ちょっと待った」コール」だろう。当時、飛ぶ鳥を落とすいきおいだったオプジーボの薬価等について、経済産業省ヘルスケア産業課長(当時)の江崎禎英氏が、講演会の中で、①がん等の疾患においては、薬剤の有効率が低いにもかかわらず「標準治療」として広く用いられることにより、治療ニーズを満たせないうえ、医療財政を圧迫する原因となっている、②有効率が低い医薬品は、適切に淘汰されていくメカニズムが必要——であると指摘したことを紹介した。

 その江崎氏が先月、『社会は変えられる: 世界が憧れる日本へ』を出版した。

 本書には、
⇒「イノベーション」とは、新しい技術を開発することではなく「常識を変えること」です。
⇒国や制度は何のために存在するのか。それは人を「幸せ」にするためです。
⇒「時代の変革期にあっても、同時代を生きる者にとっては日常である」という言葉が示すように、単に厳しい状況に気づいていないだけかもしれません。これから私たちが選ぶ選択肢によって未来は大きく変わるのです。
⇒歴史に「if」はありません。しかし同時に未来に「絶対」はありません。1000年に1度の転換期ともいえるこの時代が、後世の人たちから「沈黙と絶望の時代」と呼ばれるか、「変革と希望の時代」と呼ばれるかは、これからの私たちの行動にかかっています。

 のように、多くの“江崎節”がちりばめられているほか、本のタイトルとなった第3章「社会は変えられる」では、「信頼できる仲間が3人いれば社会は変えられます」という過去の江崎氏の実績が描かれている。とくに、岐阜県時代の福島県被災者受け入れのエピドードは、涙なしには読めない。

 もちろん、「がん」については多くのページを割いている。どうやら、イギリス的な制度の導入を目指しているようで、「『効いた抗がん剤にしか薬剤費を支払わず、同時に効いた薬の薬価を大幅に引き上げる制度』を導入してはどうでしょうか」と述べている。

「医療費の本人負担分を支払ってもらうためには、医者の言う「効く」と患者が期待する「効く」に齟齬があってはいけません。これは同時に製薬会社にとっては、どのように患者に薬が効くのかの研究が収益に直結することを意味します。またMRにとってもどのような条件の患者を選ぶべきか医者に積極的に情報提供することが必要になります」

 本書のオビには「数々の不可能を可能にしてきた現役官が示す超高齢社会の『処方箋』」と書かれている。江崎氏がこのビジョンを実現するために、どのような行動をとるのか楽しみだ。

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川越満(かわごえみつる)  1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。

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