医薬経済は医療・医薬を取り巻く環境の“いま”にフォーカス!

MENU

ベニバナ :多色多様は用途多様の証

 梅雨時に咲く花は、と問うと多くの方はアジサイやクチナシを思い浮かべられるのではないだろうか。雨がそぼ降る薄暗い薬用植物園では、真っ白なクチナシの花は確かによく目立つし、甘い香りも特徴的である。しかし、この時期の園でもうひとつ、白とは対照的に鮮やかな色彩を放つ薬用植物がある。ベニバナである。

 咲き始めの時期は鮮黄色の管状花がツンツンと立つばかりだが、花期中盤となると集団の中には黄色、橙色、赤色、またそれらの中間色の花もあったりしてなかなかに綺麗である。この時期に学生対象の実習を行うと、鮮やかさに惹かれて学生は観察対象にベニバナを選ぶことが多いが、この花色の多様性に首をかしげる者も多い。

 多様な花色が見られる理由は、ひとつの花を咲き始めから継続的に一週間ほど観察すればすぐにわかることなのだが、ベニバナの花は、咲き始めは黄色、開花後時間経過とともに色に赤みが加わって橙色に変化していき、同時に小花が外向きに広がったボリューム感のある花姿を経て、花の色は紅色に変化しつつ、下部の子房が膨らみ、ついには管状花は暗赤色になってしおれ、子房は球形に近い形にまで膨らんでいく。この一連の花色の変化が集団の中でバラバラに進行するので、ある観察時の状況を切り取ると、多様な花色がその集団内に同時に存在するのである。

 ベニバナの管状花は紅花(コウカ)と称する生薬にされるが、また同時に口紅や布などを染める染料にも利用される。日本ではかなり古い時代から使われていたようで、古典の中にもしばしば登場する。花の構造の先端にある管状花を摘み取って使うので、末摘花(スエツムハナ)と称されていたようだが、末摘花と聞いて源氏物語を思い出した方もおられるのではないだろうか。月明かりの下に見た女性のハナサキ(鼻先/花先)が赤いことを掛けたネーミングである。

 ベニバナに含まれる色素には黄色と紅色の2種類がある。黄色はサフロールイエローと呼ばれる色素で水溶性、他方紅色はカーサミンで脂溶性である。日本薬局方第17改正のコウカの確認試験では、これら2種類の色素を希エタノールで抽出し、ペーパークロマトグラフィーで移動度と色調が違う両者を同時に検出する方法が採用されている。

 ベニバナはもともと棘だらけの植物で、頭花も茎葉も、迂闊に触ると痛い思いをする。そこから花先(管状花)を摘む作業はなかなかに難しい。そこでトゲなしのベニバナも育種されている。近年の国内ベニバナ栽培は山形県が有名で、山形県花もベニバナなのだそうだが、このエリアで盛んに栽培された品種は最上ベニバナといい、トゲがあるタイプである。世界中で栽培、利用の歴史があるベニバナは他にも育種された品種がいくつもあり、紅色色素含有量が特に多くて、花色が咲き始めから赤いものや真っ白な花をつける品種もあるようである。

 ベニバナのエキスは動物実験で血流量を増加させるなどの効果が観察されているようだが、生薬コウカとして漢方処方に配剤される場合には、漢方医学でいうところの瘀血状態(気・血・水のうちの血がうまく巡らず滞った状態)を解消する働きや月経に伴うトラブルを緩和する働きなどが期待されると考えられている。

 ベニバナは管状花だけでなく、種子も利用される。種子の外観はひまわりの種子を太短くしたような感じで、華奢な植物体に不似合いなほど大きく、またひとつの頭花にかなりたくさん結実する。これを絞って得られるのがベニバナ油で、リノール酸が豊富でいわゆる健康に良い油に分類される。さらにトゲなしの品種は切花としても重宝されているようである。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
伊藤美千穂(いとうみちほ) 1969年大阪生まれ。京都大学大学院薬学研究科准教授。専門は生薬学・薬用植物学。18歳で京都大学に入学して以来、1年弱の米国留学期間を除けばずっと京都大学にいるが、研究手法のひとつにフィールドワークをとりいれており、途上国から先進国まで海外経験は豊富。大学での教育・研究の傍ら厚生労働省、内閣府やPMDAの各種委員、日本学術会議連携会員としての活動、WHOやISOの国際会議出席なども多い。

BEHOLDER