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【読書子】消えた通説から最新の知見まで 『「がん」はなぜできるのか』

「日本人の2人に1人ががんにかかり、3人に1人ががんで亡くなる」と言われて久しい。日本人にとって、がんは克服すべき病の筆頭にあげられる病気だ。そのがんができるメカニズムから、診断法、最新治療までをコンパクトにまとめたのが、『「がん」はなぜできるのか』。

 第1章では、初心者にもわかりやすいよう「がんとは何か?」を詳しく解説している。例えば良性腫瘍と悪性腫瘍の違い、がんと肉腫の違い等々。言葉の定義や違いをよく理解しておくことで、第2章以降の難しい話題も理解しやすくなる。

 今日のように、がんの患者が増えた〈背景には、医学の進歩や衛生環境の改善、食糧の増産により、先進国を中心に平均寿命が延びたこと〉がある。平均寿命が短かった時代には、栄養状態の悪さや感染症でがんにかかる前に亡くなっていたのだ。

 がんは〈化学発がん説、ウイルス発がん説、遺伝説など、さまざまな説の研究が行われ〉たが、〈現在では「がんは遺伝子の病気である」と考えられ〉ている。〈遺伝子変異が次第に積み重ねられた結果、がんが発生する〉というわけだ〈多段階発がん説〉。がん遺伝子、がん抑制遺伝子ともに数百もの数が見つかっているという。

 喫煙や過度の飲酒習慣など環境要因も日本人のがんの発生に大きな影響を与えているが、感染性要因も大きな要因となっている。〈子宮頸がんのパピローマウイルス、肝細胞がんのB型肝炎ウイルス〉などはよく知られたところだろう。こうしたウイルスによって、がん遺伝子が活性化したり、がん抑制遺伝子が不活化したりすると考えられている(まだよくわかっていない部分もあるようだ)。

 免疫チェックポイント阻害剤など近年、さまざまながんの治療法が登場しているが、注目株は、最終章で触れられている〈がんゲノム医療〉だろう。2019年春から、全国にある11ヵ所の医療機関で、〈公的医療保険が適用されるがんゲノム治療が始まる予定〉となっている。

■がん13種を発見するmiRNA診断

 がんの克服には、早期発見が何よりも大切だ。治療の選択肢も増える。本書は、がんの診断方法や現在の課題について詳述している。今後期待されるのは、マイクロRNA(miRNA)診断。miRNAを腫瘍マーカーとして、〈1滴の血液から13種類のがんを超早期に発見する技術〉の臨床研究が始まっているという。

 できることなら、がんにはかかりたくない。しかし、がんは予防できるのか? 禁煙、節酒、適度な運動、食生活の改善、適正体重の維持などによって〈がんのリスクはほぼ半減する〉という。

 昨今、予防的な意味合いで行われつつあるのが、“先制医療”である。遺伝的に高い確率で乳がんや卵巣がんになる確率があった女優のアンジェリーナ・ジョリー氏が、乳房と卵巣・卵管を切除して話題になった。〈がんになる手前の前がん病変が見られる人などには、薬による予防、いわゆる「化学予防」という方法が提案されて〉いるという。薬の開発にあたっては、既存薬に新しい薬効を発見して活用する〈ドラッグ・リポジショニングという手法〉も活用されている。

 健康な人を対象にした子宮頸がんワクチンとは少し違って、化学予防は“グレーゾーン”にある人への投薬だが、副作用のリスクや公的医療保険の適用など、さまざまな課題がある。筆者が指摘するように〈どこまで医療が介入できるかといったことも社会全体で考え〉る必要が出てくるだろう。

 本書を読んで、がんができる仕組みが「ここまでわかっているのか」と驚いた一方で、逆に「まだまだ分かっていないことも多い」という印象を持った。いずれにしても、自身の生活習慣を相当改善しなければならないことだけは、確かなようだ。(鎌)

<書籍データ>
「がん」はなぜできるのか
国立がん研究センター研究所編(講談社1100円+税)

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