医薬経済は医療・医薬を取り巻く環境の“いま”にフォーカス!

MENU

<医療過去未来>医薬・医学の学術研究組織を訪ねて――⑤日本血管映像化研究機構(下)

 前回に引き続いて、日本血管映像化研究機構を紹介する。同機構の児玉和久理事長、小松誠・大阪暁明館病院心臓血管病センター長にインタビューで解説をしてもらった。大動脈内視鏡観察は、AMEDの研究補助も得られる見通しとなり、国内の先端的で幅広い領域での診断技術となることが期待されている。なお、開発上の細部の説明は省略した部分もあることをお断りしたい。

●大動脈内視鏡検査から「塞栓」メカニズム解明

【児玉理事長インタビュー】

――血管内視鏡検査の必然性に至る背景は。

児玉 粥状動脈硬化症とは生活習慣などのいろんな刺激で内皮細胞が傷害されると、血中の白血球(単球)が内皮細胞にくっつくようになる。さらにこの単球は内皮細胞の間から潜り込み、「マクロファージ」に変身します。血液中のコレステロール(LDLコレステロール)が多いと、この「マクロファージ」が脂肪物質を取り込み、内膜下に溜りを形成する。さらに時間の経過とともにこの「マクロファージ」自体も壊れて、先に説明したように「粥状」になります。これが粥状動脈硬化と呼ばれる所以です。

 また、ストレスなどの因子でLDLコレステロールが酸化され、酸化LDLとなり炎症を起こし、それが血管内膜を侵し、そして突き破ることでいろんな障害=病気を引き起こします。しかし、それですべて終わりではなく、それから先で起こる多くのことは十分医は解明されていないのが現状です。

 とくに冠動脈では、造影検査による画像診断が行われるようになり、世界中に普及した。私たちも50年前に海外からそれを取り入れ、日常臨床で活用しました。冠状動脈では心筋梗塞は冠状動脈が閉塞していて、狭心症では狭窄していることが認識されるようになった。それが心臓カテーテルによる冠動脈形成術やバイパス手術の開発につながったのです。それまで50%近かった心筋梗塞の死亡率が数%まで下がった。

 この冠動脈のカテーテル検査から派生した治療成績の改善はインパクトが大きく、循環器疾患の診断、治療に大きな歩みをもたらしましたが、逆にみれば仇となったのかそれ以降の進歩が止まったとも言えます。治療法の選択についての心臓外科医と循環器内科医の対立が起こったり、循環器内科の専門家が冠動脈にばかり関心を向けるようになり、目標を見失ったのか、他の血管系、殊に大動脈などの疾患には、関心が薄れてなってしまったように感じています。

――治療手法の開発が診断の進歩を遅らせた、と。

児玉 極端な表現をすればそうとも言える。37年ほど前から私は血管構造の分析を通じて、血管は内視鏡で観察できるのではないかと考えた。この考え方を後押ししたのは、消化器系における内視鏡技術の進歩。1953年に開発されたプリズムを使った軟性胃カメラ、それに続くガストロファイバー・スコープ(GFS)は本邦で開発されたもので画期的な技術です。現在では初期の胃がんが発見できるようになり、その治癒も可能にした。この技術は消化器全体に広がり、診断治療の基本となっています。

――軟性胃カメラの開発がモチベーションに。

児玉 その通りです。この技術で血管も見ることができるのではないかと考え始めたのは当然で、80年代には米国で最初の技術開発、実験モデルでの開発が行われました。最大の課題は血管内の内視をするには、血流を少なくし血管内腔を透視する方法、いわゆる「阻血」の技術が必要になる。83年に米国で行われたのは、バルーン(風船)を使って完全に血流を止め、それで血管内を透明化する方法だった。しかし、この方法は死亡事故が頻発し、臨床使用が認可されて間もなく、FDAが使用と製造を禁止しました。

 それに対し私たちが開発したのは、誘導用のカテーテルを二重構造にして、透明な液(疎血液)を注入することで先端部分の血流を「疎」にして、その部分だけを観察できるという構造です。非常に特異的な発想でしたが、これが結果的に成功につながった。安全性も非常に高く虚血の合併もありません。

 4年前からは大動脈を観るための技術開発も始めました。大動脈は高圧で血液が流れており、大動脈と冠動脈の内径は100倍ほど違う。先端からだけの疎血液の注入だけでは不十分。そこで、デュアル・インフュージョン法という方法を考案した。これが大動脈など冠動脈以外の血管へアプローチできる大きな技術的進歩であった訳です。

 我われが使う現行のファイバー・スコープは直径が0.65~0.70㎜、画素数は6000画素です。開発に際しては、さまざまな試作品を作ってみたが、より細いファイバーを使い、例えば9000本、1万本にすると、ファイバー間での遮光が不十分になり露光が起こり、むしろ画像が悪くなる。また素材が石英ガラスなので、ファイバー数が増えると固くなり、操作性が悪くなる。屈曲させて折れたりすると元も子もない。そうした理由があって、現行の6000画素、外径0.65~0.70㎜とする製品を完成させました。現在はより精度の高いファイバー・スコープやICカメラ搭載型を含め開発を進めています。

●安全性確保した国内独自技術で4万症例

――どの程度の成果を得ていますか。

児玉 これまでに、このファイバー・スコープを使って国内ですでに4万症例(冠動脈+大動脈他)ほど施行例を蓄積していが、これまで事故例は1例もない。むろんカテーテル検査の途上でやるので、検査の一連の中で合併症はないわけではないが、血管内視鏡に特化した不祥事は皆無です。厚生労働省が最も重視する安全性の確保は十分に対応できていると確信しています。

 冠動脈を血管内視鏡で見ると、粥種によって心筋梗塞ができる機序を観察できる。この画像は20年以上前に確認されたもので、冠動脈内での粥腫の破綻と粥腫内容物の流出などが克明に示されています。当初は私ども専門家でもその画像には驚嘆しました。とくに当時は、現在ではコレステロール・クリスタル(CCE)と認識できるキラキラと光る欠片、これが一体何なのか理解できなかった。しかし、それでもこの瞬間は、粥状動脈硬化の末路を実働画像として目の当たりにした瞬間でした。

 さらに、この患者は何度も動脈硬化を起こしていましたが、冠動脈のあらゆるところで粥状硬化が認められた。こうしたことはそれまで病理医の論文には記載されてはいたものの、循環器専門医が臨床現場で確認できたのは世界でも初めてでした。また他の画像診断では見つけられない狭窄部分も、血管内視鏡では詳細な仕組みがわかりやすく観察できる。大きな進歩でした。そこでこれを論文にすると、その直後に米国の心臓医学界の権威ある教科書にすぐに採用された。粥状動脈硬化は血管(冠動脈)の全領域、至る所で起きると記載された。ただ、日本では完成された技術だが、この教科書では「開発途上」と注記されているのは少し不満ですが(笑)。

●現状の治療法に甘んじる循環器専門医

――なぜ、循環器の領域でこうした研究が関心を持たれてこなかったのか。

児玉 残念なことですが、冠動脈形成術(PCI)の異常なほどの普及が、症例数を積み上げることへの関心が中心的になり、病態の詳細な観察を億劫にさせる要因になってしまったように思います。一例々の症例を丁寧に、詳細に観察すると、冠動脈も大動脈も多様な形態、動態を示していることがわかり、個体差、や治療予後と密接なかかわりを持つことがわかります。また疾病の起こる始まりから、発作に結び付く瞬間も観察できます。

 現状の冠動脈疾患は、バルーンで広げてステントを入れるという治療法が一般化し、それ以上の治療開発への意欲を削いでしまっているのではないかと憂いています。

 そうした状況の中で、同席している小松先生らと、新たな動脈硬化治療開発の研究を進めました。小松先生たちは、疎血が不十分な場合にどうすればよいかという考え方からトライし、2ヵ所から疎血液を入れるという方法をみつけました。

 また、冠動脈を観察中に内視鏡そのものが冠動脈から抜け、大動脈に移動したため、図らずも動脈内を観察する偶然にも遭遇しました。偶然性が大きな科学技術の進歩をもたらすきっかけになることがあります。よく言われる「ニュートンとリンゴの木」の喩えです。

――関心を集めるには。

児玉 私としては、TCIFなどの独自のフォーラム、あるいは関連学会などを通じて、とにかくこの技術を世界中に浸透させたい。TCIFの参加者も年々増加しています。参加者のうち医師は循環器内科医だけではなく、心臓外科医、放射線科医、神経内科医、脳神経外科医、眼科医など増えており、関連の技術者、企業関係者の関心も高まっていると実感しています。

 循環器専門医は前述したように形成術で満足していると、さらに革新的な技術に苦労するには積極的になれない状況があるのかも知れません。逆に最近では循環器医以外の脳神経、眼科などの医師が実地研修に応募されます。むろん、これは認知症など未解明の老化をはじめとした関連する疾患の解明への意欲が関心につながっているのではと感じます。脳、眼、腎臓など大動脈との関連が密接な臓器領域でこの技術への関心が高まる状況にあります。

 とくに脳神経系はCCE(コレステロール・クリスタル塞栓症)と認知症の関連に関する論文が発表され始めており、この技術の浸透にはむしろいろんな異分野が拠り所になるのではないかとの予感があります。脳神経科でできないところは、放射線科など関心を示しています。いわゆる学際的研究が必要で、待たれるところです。

●将来はカプセル内視鏡の開発も視野

――現状の浸透度は。

児玉 循環器内科はなかなか血管内視鏡検査をやる動機が生まれない。それでも少しずつ広がって、現在では全国約70施設で行っています。ここ4~5年で倍増はしました。

 ただ、検査施設数が増えると、製品供給が間に合うかという心配も出てくる。この製品はすべて手作り。年間の供給数は2050本程度で、1社しか対応していません。これを2社供給体制にする準備を進めているところです。将来的には、ICカメラ搭載のカプセル内視鏡で血管内観察ができないかと考えています。これが実用化されると一期的に全身血管の詳細な観察が可能となり、治療デバイスの搭載なども可能になると考えています。

 今後、大動脈の内視鏡検査がスクリーニングとして普及すると、年間1万4500人(OECD加盟国では年間約80万人=推定)も死亡する大動脈解離、大動脈瘤破裂など致命率の極めて高い疾患の先制診断、先制治療という画期的展望が開けます。

 また、大動脈の動脈硬化粥種が破綻し、そこから遊離、浮遊して全身に飛び散って行く塞栓子が全身臓器にCCEを引き起し、認知症、腎不全など老化現象を惹起する種々の疾患のメカニズムの解明に有力な情報を提供すると確信しています。

【小松氏インタビュー】

●血管内を観る、そして取り出して顕微鏡で観る

――基本的な解説を。

小松 私からは自分の論文をもとに少し基礎的な説明をします。これまでの常識は、大動脈のプラークはカテーテルを入れたから起こる医原性とみられていました。医原性でないものは割合としては5%くらいではないかと考えられていた。

 観察はCT程度のレベルしかわからない。分布も、死体ではわかるが、生体ではわからない。成分も何が飛んでいるのかわからなかった。コレステロール結晶も含まれるが、何かわからない。飛ぶ距離も、100~200㎛といったようなレベルでしか理解されていなかった。これを観察し突き止めるためのアプローチをどうするか。まず大動脈を観察する内視鏡を作る、それからCCEを採取し解析する方法を作りました。従来の方法論からいかにして脱却するかから方法論を探し出した。

 324人のカテーテル検査した患者に内視鏡検査すると、262人にプラーク破たんしたキラキラ光るものをみつけることができた。80%近いが、被験者は動脈硬化がある人だということで、高率となってしまいます。

 このうち、横隔膜より下でプラークのある人の吸引を試み、120人中96人からサンプルを得た。なかでは光りながら飛ぶというものが最も頻度が多かった。この光って飛ぶものが横隔膜より下、大動脈でも30~36%確認された。大動脈から四肢動脈、脳動脈へ多く飛ぶこともわかった。LDLコレステロールが高い、あるいは心臓病の人は脳梗塞や、認知症、腎臓病になりやすいということは疫学的にはいわれていたが、この大動脈内視鏡検査で、その背景を、科学的に説明できるのではないかと思います。

●ラメサインの発見

小松 プラークの部分を取り出して観察すると、内視鏡で飛んでいるものと同じキラキラしたものを観ることができる。女性化粧品のラメに似ているので、我われは「ラメサイン」と呼んでいる。CCEの径は30~40μmと小さく、その成分も石灰化、フィブリン、マクロファージなど、これまでは血栓と括られていたもの。多様なものが多様な大きさで、複雑に組み合わさって飛んでいる。

 我われが開発した検査法を使うと、プラークは多彩な成分で構成され、それが重層化したり、単体になって飛んだりしていることがわかります。それが多彩な塞栓を起こす。例えば単体でCCEが飛んで網膜に入っていると、それがキラリと光って見える。

 従来考えられていたコレステロール結晶が血管内に飛んで塞栓を起こす割合は5%程度だが、今回の研究では80%ほどあることがわかった。将来的には、大動脈内視鏡検査でのシャンデリアサイン、抽出物のラメサインのカウントを通じて、薬効評価、認知症との相関、老化、生活習慣病との関連などへの研究領域の拡大が見込まれると考えています。(幸)

BEHOLDER