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〔鵜の目鷹の目〕築地場外の味が心配

「都民の台所」である東京・築地市場が閉鎖され、築地の1.7倍の広さを持つ豊洲新市場に移転、大安の10月12日から開場した。これまで新豊洲市場には水溜りができていて、ベンゼンが地下から発生しているなど、安全性がさんざん問題になってきたことは新聞、テレビで報じられた。

 だが、2年間に及ぶ騒ぎのなかで不思議に感じたのが、いったい誰が築地市場の主人公なのか、という点だった。豊洲移転は石原慎太郎知事時代にスタートし、東京都は移転を進めた立場だった。小池百合子知事の誕生後、移転だ、築地改築だ、と大騒ぎの末、豊洲市場の有害物質を抑える工事を進めて豊洲移転が決定となったが、その間、仲卸は移転賛成と反対が半数ずつで揉めに揉めたし、場外の飲食店は困惑していた。有識者も築地と豊洲の安全性や衛生面、利便性をそれぞれが主張し、それを逐一、報道され、大騒ぎが続いた。

 しかし、築地市場の本当の主人公は東京中の魚屋であり、寿司職人、和食の板前、レストランのシェフではなかったのか。昭和20年代から40年代くらいまで、早朝の地下鉄日比谷線の車内には長靴を履いた寿司職人や板前が竹製の籠を持って乗っていて、築地駅で降り立った。クール宅配便が築地市場に進出すると、寿司職人や板前は仕入れた魚を入れる籠を持たないようになり、車で来る人が増えたが、彼らが毎日、早朝の築地市場に来ない日はなかった。

 筆者がレストランで働いていたとき、築地市場に仕入れに行ったこともある。仕入れはいつも決まった仲卸のところに行き、魚やエビ、貝類を仕入れるが、卸は顧客の好みを知っていて、いいものを手に入れて用意しておいてくれる仕組みになっていた。仲卸も仕入れる魚屋も板前も魚の専門家であり、相互に腕を磨いている。市場は仲卸の働く場所だが、主人公は彼らの客である東京中の魚屋、寿司職人、板前、シェフたちのはずだ。

 ところが、豊洲新市場移転問題では、都と仲卸の話ばかりだった。真の客である魚屋、寿司職人、板前、シェフが忘れ去られていた。こんなことでいいのだろうか。

 築地のときは地下鉄で通う人も多かった。だが、豊洲に買い出しに行くには地下鉄有楽町線と新交通ゆりかもめを利用することになるが、鉄道の利便性は築地のときより劣る。時間もかかる。高速道路を利用して車で買い出しに来る客が大幅に増えるだろうが、駐車場が小さい。近くの東京ビックサイトでイベントがあると駐車場不足になり、付近は渋滞してしまう。豊洲では早朝から駐車場不足に陥るだろう。市場の主人公であるはずの魚屋、寿司職人、板前のことを考えていなかったことが明らかになりそうだ。

 もうひとつの不安は、一般の人たちに人気になっている築地場外の飲食店だ。ここはうまいし、早いし、安い。牛丼の吉野家のキャッチフレーズのようだが、場外の飲食店のほうが老舗だし、うまさは本物である。理由は客にある。場外の飲食店は朝早く仕入れに来た魚屋、寿司職人、板前、シェフが魚を仕入れた後、朝食をとる店である。しかも料理のプロだから味についてはうるさい職人である。もし不味かったら寿司職人も板前もシェフも二度と来ない。彼らプロが「うん、うまいね」という味でなければ成り立たないのである。

 寿司職人も板前も場外の店で食事をしたらさっさと帰るため、店は昼で閉店した。それが一般のお客が食べに来るようになって夕方近くまで開いている店が増えた。さらに外国人観光客も食べに来るようになり、テレビが盛んに紹介するようになり有名になった。テレビで紹介されると、客が増えるため、味が落ちるのがふつうだが、場外の店は食のプロが食べるため味は落ちなかった。

 この場外の飲食店は豊洲に移るほか、築地に用意された専門店ビルにも入居するという。だが、築地に残る飲食店の味は大丈夫だろうか。グルメ好きで、何でも美味しい、ジューシーだと伝えるテレビは相変わらず、「美味しい、美味しい」と“宣伝”するだろうが、今までと違い、寿司職人や板前、シェフが味見をしない店になるのだ。家賃も上がるだろうから飲食店は採算をとれるようにしなければならない。といって、銀座や日本橋の高級店のような高い料金はとれない。結果、並みの飲食店の味になりかねない。豊洲移転で人気の築地場外の飲食店の味が心配になる。(常)

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