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『週刊誌のツボ』 ★ひとつのインチキが損なう全体への信頼

 今週は週刊文春のスクープ、『「イッテQ!」は宮川大輔「祭り企画」をデッチ上げた』が話題を呼んでいる。日テレの人気バラエティー番組「世界の果てまでイッテQ」の名物企画「世界で一番盛り上がるのは何祭り?」で、5月に放送された「橋祭りinラオス」、水上に渡した長さ25メートルの橋で自転車を漕ぎ、空中に吊るされ回転する球体を避けながら渡り切る、という〝祭り〟が、現地には存在しないイベントだというのである。

 ワイドショー出演者やネット上の反応には「バラエティー番組なのだから目くじらを立てなくても……」という声が多い。しかし、ラオス政府・情報文化観光省が不快の念を示している、と伝えられ、雲行きが怪しくなってきた。日テレはまだ、「番組サイドがイベントを企画したり、セットなどを設置したりした事実はない」として、「誤解を招く表現だった」と釈明するだけだが、現地コーディネート会社はすでに、〝番組のためのイベント〟をわざわざつくり出したことを認めている。

 コーディネート会社が勝手に暴走し、局側がすっかり騙された、という筋書きには無理があるだろう。局側も承知の上、と考えるのが自然だ。問題の焦点は、バラエティーにおいてもやらせはダメなのか、という点にある。

 あるワイドショー出演者は、昭和の〝珍番組〟「川口探検隊」を引き合いに「イッテQ」を擁護するコメントをした。いかにも嘘くさい〝秘境〟への突入を、視聴者もインチキだと理解したうえで楽しんだ番組だ。娯楽番組ならいいだろう、という言い分も、わからなくはない。

 ただ「イッテQ」の場合、番組タイトルにもある通り、単なるお笑いでなく、世界の文化・風習・大自然を紹介する「紀行番組」という看板も掲げている。つまりロケ取材には毎回、〝現地〟が登場する。〝アジアのX国の話〟ではないのである。このネット時代、外国の話だからと作り話を並べても、たちどころに突っ込まれてしまう。日本国内で「〇〇市の奇祭」などとでっち上げることを想像してみれば、クレームが来ないほうがおかしいとわかる。今回のスタッフは、「どうせラオス人は番組を見ないし、日本人は現地を知るまい」と舐め切っていたのだろう。

 この〝やらせ・でっち上げ〟は報道ジャンルではタブーとされているが、実際には、ドキュメンタリーやノンフィクションの作品でしばしば発覚し、問題化している。何のケースかは忘れたが、かつてジャーナリストの田原総一朗氏は「ドキュメンタリーにおいて演出とやらせに境界線は引けない」と、〝やらせ的な演出〟を擁護した。

 私は違うと思っている。インタビューの取り直しや映像の前後関係を入れ替えるような手法は許容範囲だろう。だがそうした映像に、ナレーションなどでウソの説明を付けたらアウトである。ましてや、会ってない人と会った、聞いていない話を聞いた、などとするウソは論外だ。それがもしOKなら、取材困難な相手に会い、証言を得る努力、決定的瞬間に立ち会う努力がまるで無意味になる。作り話とニセ映像で済んでしまうのだ。

「イッテQ」の場合、芸人の面白おかしさだけでなく、「こんな奇祭がある」という情報提供にも、売りがあったはずだ。よくぞこんな祭りを見つけてきた、よくぞ撮影の許可をもらえたものだ、という〝番組の誇る成果〟もあったことだろう。しかし、今回のようなチャチなマネをしてしまうと、真面目に取り組んだ過去の功績さえ水の泡になる。地元関係者に不快感を与えること、視聴者を欺く結果になることも、もちろん問題だが、何より当の番組制作者にとって、まじめに築いてきた信頼がたった一度のインチキで損なわれてしまう。そんな職業的プライドにもかかわる話だということを忘れないでほしい。

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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。

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