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【読書子】デタラメ情報を見破る 『すべての医療は「不確実」である』

「この成分の効果には、エビデンスがあります。ついてはこの論文をご覧ください。○○の効果があることがわかります」――。

 医療や医薬だけではない。最近は、健康食品の分野でも、こんな発言をする人が増えてきた。新製品や主力製品の販売に力を入れるメーカーや、その意を受けて動くPR会社やメディアコンサルタントの面々だ。

 エビデンスやデータというだけで、一見もっともらしくなる。しかし、大半は被験者数が極端に少なかったり、調査の方法が怪しかったりと突っ込みどころが満載である。

 ウェブ全盛の時代になって、不完全な健康情報を無批判に載せるメディアが目立つようになった。問題視された健康サイトの「WELQ」だけではない。今も怪しげな情報を掲載しているメディアが数多く生息している。発信側の問題だが、編集記事には、広告の規制(徐々に厳しくなっている)もかからないことが多く、よりたちが悪い。

 玉石混交の1次情報、2次情報が大量に出回るなか、読み手は医療情報を自ら取捨選択する必要がある。『すべての医療は「不確実」である』には、そのノウハウがふんだんに盛り込まれている。

 医療情報を読み解く際に心しておきたいのは、〈いつまでたっても医学が完璧ではなく、依然として医療が不確実〉という大前提だ。だからこそ、時代によって医療は変わるし、常識も変化する。

 今日、医療の世界では「エビデンス」「EBM(科学的根拠に基づく医療)」という言葉が当たり前のように出てくるが、実はEBMが登場したのは1990年代から。わりと最近のことだ。それまでは〈データに基づくというよりも、現場の医師の経験や勘に頼る部分が多かった〉。

 医療の素人は(一部のプロも)EBMと聞くと、「万能なもの」「絶対的真実」と思いがちだ。しかし、前述したように常に医学は完璧ではない。EBMとは、〈個々の患者に対する臨床判断の局面において、最新かつ最良の科学的根拠を明示的かつ良心的に一貫して適用する〉という相対的概念なのだ。

■病気が治せるなら薬にすべき

 もっともらしい情報に惑わされないために、本書で紹介される手法を一部紹介しよう。

 例えば、情報の信頼性を担保するのに、「どんな論文誌に載っているか」をみるのもひとつの方法だ。本書で紹介する「医学論文誌の信頼度ランキング」「インパクト・ファクター」はわかりやすいところである(逆に高額の料金をとって論文を掲載する“ハゲタカ・ジャーナル”も存在する)。

 華々しく新聞やネットニュースのトップを飾る「夢の新薬」「治療法」には注意したい。〈動物実験の拡大解釈〉も多いからだ。試験管でうまくいったり、動物に効いたとしても、実際にヒトに効くとは限らない。効くとしても、実用化されるのは長い臨床試験を経た後だ。ずいぶん時間がかかる。誤った情報、過度な期待を抱かせる報道は少なくない。

 先日、あるクリニックのウェブサイトを見て驚いたのだが、「ガンは早期発見なら100%治ります」と記されていた。もちろん〈「絶対」「百%」という言葉は、医療では使えないはずの言葉である〉、それだけで十分怪しい。にもかかわらず、同様のウェブサイトは巷にあふれている。信じてしまう人が多いのだろう。

 著者は、冒頭のような健康食品に対しても手厳しい。〈病気を治す効果があると言いたいならば、「科学的根拠に基づく医療」と同じ土俵に載せて、その効果を科学的に証明し、学会で発表し、医学論文として出版した後に、健康食品ではなく医薬品としての承認申請を行うべき〉と一刀両断である。まったく同感だ。

 医薬品を作るノウハウがある会社ですら、臨床試験をしない健康食品を派手なプロモーションで売っている。多額の研究開発費よりコストが低く、儲かるのだろう。

 今後期待されるのが〈レセプトやDPCデータなど医療ビッグデータ〉の活用だ。実のところ、医療の有効性がデータで検証されるようになる以前から行われている医療行為は少なくない。そのため〈現在行われている医療が、必ずしも質の高い科学的根拠に基づいたものであるとは言えない〉。さまざまな理由から臨床試験をできない医療も含めて、効果や無駄を検証できる時代も近そうだ(本書では肝がんの大手術をどこで行うべきかをデータで検証している)。なかにはデタラメが明らかになる既存の医療も出てくるだろう。

 医療・医薬業界の人々の話を聞く限りでは、本書でも紹介されている、Google検索の改善――怪しげな医療情報の検索順位を落とす――は、一定の効果を発揮したようだ。

 しかし、今なお怪しい医療情報はあふれている。本書のノウハウを駆使しても、すべての人が良好な医療情報にアクセスし、正しく理解することは至難の業だ。今後はEBMに基づいた適切な医療情報だけを選択してくれる「ヘルステック」の登場にも期待したいところ。さまざまな論文から、わかりやすい記事を作れるほどのテクノロジーができれば、“目利き”を自称してきた、二流記者の仕事を奪うことになりかねないが……。(鎌)

書籍データ
すべての医療は「不確実」である
康永秀生著(NHK出版新書 820円+税)

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