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【今週の提言】 働き方改革でリアル講演会がなくなる

 先日、ある地域の“企業の垣根を越えた営業所長の会”に参加させていただいた時、彼らから2つの新しい動きを耳にした。

 ひとつは、地域の未来のポテンシャルと連動した評価を始めた企業が出てきたことだ。人口構造の変化が我々に変化を求めていることは言うまでもないが、未来の市場ポテンシャルがすでに医薬品の実績にもリンクしていると所長たちは話していた。

「川越さんが講演で紹介している2040年までの二次医療圏の入院医療の需要(参考:経済産業省「将来の地域医療における保険者と企業のあり方に関する研究会」報告書)と、いまの薬の動きが本当にリンクしていますよ」

 まだまだ入院も外来も伸び続ける地域を担当するMRと、すでに外来市場が減少し始めており、急性期病床が縮減していく地域のMRの評価が同じモノサシであってはならない。もし評価基準が同じなら、伸びない地域を担当しているMRは、いますぐに「福岡・糸島」や「つくば」のような“ブルーゾーン”(2040年以降も市場が伸び続ける地域)に異動願いを出すべきだ。

 もうひとつは、医師の働き方改革によるものだ。6月29日の参院本会議で成立した働き方改革関連法は、▼時間外労働の上限規制(罰則付き)▼年次有給休暇の確実な取得▼月60時間超の時間外労働に対する割増賃金▼高度プロフェッショナル制度の創設▼不合理な待遇差を解消▼待遇に関する説明義務――などによって構成されたもので、時間外労働の上限規制は2019年4月から施行される。

 医師等は5年間の猶予があるため、時間外労働の上限規制は2024年4月から適用される。しかし、一部は「まだ5年以上ある」とは考えていないようで、院内における夜開催の講演会を禁止する病院が出てきているという。最近、病院内で開催される講演会が増えている印象(企業にとっては会場費と情報交換会の費用がかからないうえに、院内の医師とコメディカルの集客が容易)があったが、今後の拡大は難しいそうだ。

 働き方改革の動きの前から、製薬企業によるリアル講演会の開催は減少傾向にあった。おそらく、今後は年率10~20%程度、予算(回数)を減らしてくる企業が増えてくるだろう。仮に年100回開催していた企業が年15%減のペースで開催を減らしたら、5年後には44回になり、20%減のペースなら33回になる。

 MRは“ミツバチ”のような役割だと思っている。ミツバチは蜂蜜をつくる以外に農産物の受粉をするという仕事がある。しかし、大量のミツバチが失踪する「蜂群崩壊症候群」が世界中で起きており、2030年代にはミツバチが絶滅するという指摘もある。

 ミツバチがいなくなれば多くの果実が実らなくなってしまうが、花粉を“医薬品情報”、果物を医療関係者に置き換えると、私がMRのことをミツバチと言う意味がわかっていただけると思う。

 実は、リアル講演会も“受粉”の役割を果たしている。病院の専門医と開業医などが相互理解を深める場であり、つなぐ役割として重要な位置づけだ。処方につながる「インパクト率」も、MRやWEB講演会よりもかなり高い。そのリアル講演会が5年間で3分の1になり、おそらくミツバチが絶滅すると言われる2030年代に企業が講演会を共催することはなくなるだろう。

 情報を受粉させる役割をどう果たしていくのか。ミツバチMRは別の方法を考えなければならない。

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川越満(かわごえみつる)  1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。

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